松井隆典『宇宙誌』嶺重慎ら『天文学入門』

嶺重慎・有本淳一編著『天文学入門』
松井孝典『宇宙誌』

 科学の進歩により「科学的無常観」ともいうべきものがでてきている。『天文学入門』でも鴨長明方丈記』の「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。」が天体の栄枯盛衰でいわれ、分子生物学者・福岡伸一氏は人間の身体は日々細胞が入れ替わる「動的平衡」を方丈記の言葉で説明する。
天文学入門』は、すばる望遠鏡ハッブル宇宙望遠鏡NASAの惑星探査機が観測した最新のデータをもとに宇宙像を描く。カラー写真も明確で綺麗であり、抽象絵画を見ているようだ。超新星残骸や暗黒星雲、渦巻き銀河、土星の輪、彗星などは芸術写真である。だがそこには美的なものはなく激しい運動しかないのは皮肉である。
 観測から137億年ビックバン以来、私たち人間生命がいかに準備されたかという視点で描かれる。かつて「天動説」というのがあったが、「人動説」といってもいい。確かに地球型惑星や人間型生命はまだ観測されていない。星雲、銀河、星の栄枯盛衰は無常観を感じさせる。太陽もあと50億年、永遠ではない。宇宙にある原子から元素が生じ、生命のたんぱく質にいたる星と同じ元素から生じた「われら星の子」を実感する。
 松井氏の『宇宙誌』は、観測をもとに理論化を目指した宇宙論だ。松井氏は地球が奇跡の星となった「水惑星理論」を唱えた。この本では古代から現代までの宇宙論を的確に紹介している。さらに地球史から地球システム論として物質圏から人間圏(それは地球から独立しようとする)まで目配りされている。松井氏はビッグバン理論によっていま宇宙論は再びおおきな変化に直面しているという。すべての物質、天体、銀河がたった一つの出来事で始まったとするなら、宇宙のあらゆる存在は有機的つながりがあり、時間も空間も宇宙の歴史的所産になる。宇宙に始原があり有限であるとすれば、われわれ人間の認識にも限界があり、宇宙論の限界は、人間の認識脳の限界となる。(二著とも岩波書店)(2010年8月)