ガンディー『獄中からの手紙』『真の独立の道など』

ガンディー『獄中からの手紙』
エルベール編『ガンディー聖書』
ガンディー『真の独立への道』

      ガンディーは20世紀の偉大な宗教家だろう。もちろんインド独立のための政治運動家ともいえる。『真の独立への道』は政治運動の実践書である。だがその根底には宗教とその倫理観がある。だから『獄中からの手紙』『ガンディー聖書』がガンディー思想をよく表わしていて感銘を、いま読んでも受ける。      ガンディーはヒンズー教だが、寛容即宗教の平等の考えに見られるように、キリスト教イスラム教、ユダヤ教などにも基本的に同じ精神性を見出し「根本宗教」として宗教の平等と連帯を説いている。
      ガンディーがヒンズー原理主義者にイスラムパキスタンと連帯を説き暗殺されたのはそのためである。ガンディーにとっては、「無宗教」の資本主義的利己的「物質文明」が克服されるべき問題だった。
      ガンディーにとって西欧近代文明は、物質的追求と身体的安楽を有意義な人生の目的とする。その象徴として鉄道、弁護士(法廷での争い)医者(利益的医薬)機械への批判となる。不道徳な文明に対し、魂の力(サッティヤーグラハ)という宗教の力で対抗しようとする。
      「私やあなたが自分の感覚器官を統御し、道徳の強固な土台を置き、識字を望み、獲得し善用できる教育」を訴える。マルクスは経済学で資本主義批判をしたが、ガンディーは宗教で批判した。
 『獄中からの手紙』では真理への愛(アヒンサー)として、純潔・禁欲・浄行、味覚の抑制、不盗、無畏、無所有即清貧が説かれる。謙虚、自己犠牲=奉仕や誓願も。また不可触賎民制の廃止や国産品愛用など興味深い主張が続く。
      現代インドの近代化、資本主義的発展をみるとガンディーの思想は時代遅れで敗北したと見える。非暴力でイギリス的軍備を模倣することを不道徳と嫌ったガンディーが、インドの核武装を許せないだろうし、イスラムパキスタンとの闘争はなおさらである。功利的欲望の自己統制を重視したのに、自由競争の市場経済の熾烈さには愕然とするだろう。
      ではガンディー思想は挫折し敗北したのだろうか。私はそう思はない。環境問題や核問題、テロから犯罪までの暴力主義、民族・宗教紛争、生命や精神活動までの利潤化、大量生産・大量消費時代の行き詰りの21世紀に、再び見直されると思う。
(『獄中からの手紙』森本達雄訳、『ガンディー聖書』蒲穆訳『真の独立への道』田中敏雄訳)(岩波文庫