大山誠一『天孫降臨の夢』

大山誠一『天孫降臨の夢―藤原不比等のプロジェクト』

大山氏の本で『聖徳太子の誕生』を読んだときの驚きは大きかった。聖徳太子が実在せず古代日本で作られた虚構だと綿密に史料で実証されていたからだ。この本はさらに発展させ、誰がいかなる状況で聖徳太子を作ったかを解明し、『日本書紀』とその編纂者・藤原不比等に行き着き、いかに天孫降臨万系一世天皇制の神話を藤原家のためにプロジェクトしたかが明らかにされている。文献史料の読みも的確である。
 日本古代史はまだまだ多くの謎を秘めており、多様な解釈史学が書かれている、文献史料としての『日本書紀』の役割は大きい。その呪縛は近代天皇制の神話まで続くからだ。私はこの本で藤原不比等を考えているとき、明治憲法で近代天皇制を創設した伊藤博文を思い浮かべた。歴史は反復しながら螺旋状に動いて行く。藤原不比等は政治的天才かもしれない。その周囲には渡来人、中国からの帰国僧などの知識人がいた。
 大山氏は蘇我王朝が実在したという魅力的な考えを主張する。『随書』でいう倭王とは蘇我入鹿だという。蘇我王朝を消すために聖徳太子を虚構し、創作されたと言う仮説も実証はむずかしが説得力はある。上山春平氏の研究以来、藤原不比等の重要性は高まっているが、大山氏の本もその発展に位置づけられる。
 (日本放送出版協会)(2010年7月)