シーボルト『日本植物誌』

大場秀章監修『シーボルト 日本植物誌』
大場秀章『花の男 シーボルト

江戸時代に長崎・出島のオランダ商館の医師として滞在したドイツ人シーボルトは、「シーボルト事件」で有名であり教科書にも載っている。日本女性と一緒になり、その子稲は日本初の女医として小説やドラマ化されている。だが博物学者として日本の植物を数多く集め西欧に紹介・移植して、園芸にジャポニズムを引き起こしたことはあまり知られていない。
シーボルトがヨーロッパに導入した植物は、アジサイレンギョウ、ツバキ、サザンカ、キリ、コウヤマキ、ウメ、ユリなど数百種にのぼるという。植物相が乏しい西欧に19世紀に園芸の時代を作り出した植物ハンターの面をシーボルトがもつていたのは意外だった。『花の男 シーボルト』はシーボルトの伝記として面白い。植物ハンターの側面を注目して書かれている。「シーボルト事件」も北海道の植物を入手するため蝦夷地図を求めたことから発している。『シーボルト 日本植物誌』は彩色図版150点が出島の日本人絵師川原慶賀の下絵にきれいに描かれ、それに植物の属性・特徴が丁寧に書かれている。ちくま文庫がこれを出版したのは英断だ。手軽に見て植物のあり方が読めて楽しい。花木の文化史(中尾佐助氏の業績がある)は植物学と結合して、グローバリズムがいかに成立していったかがわかり面白い。(『花の男 シーボルト』文春新書『シーボルト 日本植物誌』ちくま文庫)(2010年7月)