畑村洋太郎『技術大国幻想の終わり』

畑村洋太郎『技術大国幻想の終わり』

    機械工学の畑村氏が、アジアや南米の生産現場に行き。現物に直接触れ現地人と対話し、日本の技術大国幻想の終わりと、今後の日本技術・企業の在り方を提言した本である。畑村氏は、東電福島原発の事故調査・検証委員会委員長を務めた。
    この本でも、原発に見る日本技術者の「傲慢さ」を指摘し、技術者は、製品や機械が壊れたときのモデルやシナリオを把握し、そのメカニズムを正確に考える必要をないがしろにしていたと述べている。
    そうした危機感が、畑村氏を技術大国という幻想にあぐらをかいている日本企業に対する診断を、日本が現地法人を設立している新興国を見ることによって、今後の在り方を書いたといえる。畑村氏は、日本人が作るものは品質が優れているという「品質幻想」や「職人技幻想」は、いまや世界では通用せず、企業の技術運営はノウハウばかりにこだわり、変化に対応した商売につながらないという。
    「摺り合わせ技術」重視は、部品ごとの独立した「モジュール化」に電機産業で立ち遅れ、さらに「デジタル化」や「危機管理能力」にも遅れてきている。韓国・サムスンやLJに遅れたのは、物の世界だけに特化し、現地の消費者文化などの「価値の世界」を軽視してきたからだとも述べている。
    スティーブ・ジョブスは、電化製品の「機能」だけでなく、電化製品の見た目の格好良さ。肌触りという五感にこだわった技術で、アップル製品を創造した。サムスンは「地域専門家制度」という現地に住み込む人材育成で、現地社会の文化や習俗を研究して技術開発をしていった。日本も日産の中国「東風」との合弁で自動車を中国社会向きに技術開発したし、ホンダもベトナムで中国車を凌いだし、インドネシアデンソーのクーラーやコマツのリマンなど成功事例も挙げている。
    畑村氏は、「ものづくりと価値の結合」を重視している。発想の新規性というヨコ軸と技術の先端性というタテ軸の組合せで、この両者を一致させる企画開発はジョブスが実現した。畑村氏は「発想の新規性と既存技術」の組合せと、「技術の陳腐化に最新技術開発」が、日本の行く道だと指摘する。東レ炭素繊維や、マツダスカイアクティブ技術、富士フィルムの業種転換を評価している。
    日本が変化して行くには。教育など人材育成と、企業のトップの決断にあるというのも納得できた。(講談社現代新書