カール・シュミット『現代議会主義の精神状況』

カール・シュミット『現代議会主義の精神的状況』
     代表制議会主義は、民主主義の制度でなく、自由主義の思想に則ったもので、そこから危機が生じると主張した1923年刊の古典である。シュミットは、ドイツ政治学者としてナチスに加担し、その反ユダヤ主義で戦後批判された。だが、ワイマール憲法下での議会主義のあり方が、ナチ・ファシズムの大衆民主主義によって崩壊していった思想の基盤を、この本は示している。
     議会主義の代表制を、シュミットは不可視の存在を、公然と現存する存在によって、目に見えるようし、眼前に彷彿とさせことにあり、被選挙人の代理や意思の反映とは見ていないと、訳者の樋口陽一氏はいう。和仁陽氏の「再現前」という翻訳が、妥当という。
     シュミットは、議会主義の原理を自由主義による「公開の討論」にあるという論拠と反論との公開の商議、公開の討議、討論、交渉と妥協にあると見る。国家秘密よりも公開性の言論の自由、権力の分立と均衡であり、独裁とは権力分立の廃棄であり、憲法の廃棄、立法と行政執行権の分離の廃棄である。
     シュミットはいう。市民的自由の保障は執行権でなく立法権にあり、党派間の対立が決定を妨げるかもしれないが、そのかわり少数者の議論が多数者の逸脱を抑える。だが現代議会主義の危機は、大衆民主主義の発展により公開の討論を「空虚な形式」にし、議員の政党拘束からの独立性や、言論の公開性はかざりものになり、政党は、討論する意見としてではなく、社会的、経済的勢力集団になり、利害抗争になる。最後は強行採決
     議会は、小委員会で決定され本会議は飾り物になる。世論は、宣伝操作が強まる。「今日ではもはや正しさと真理を説得するのではなくて、多数を獲得しそれによって支配することが問題なのだ」と書く。
     議会の危機に、シュミットは、マルクス主義による独裁と、直接暴力行使の非合理主義理論の台頭を挙げている。民主主義という「同質性の平等」、「他者という異質」を排除することにより、大衆民主主義として議会主義を崩壊させていく。シュミットの見方は、ナチズムやプロレタリア独裁を予見していたともいえる。(岩波文庫樋口陽一訳)