スチュアート・ジム『ポストモダンの50人』

スチュアート・ジム『ポストモダンの50人』

    1980年代に、日本でもポストモダン思想は盛んに紹介された。だがまたもや「様々な意匠」になってしまい、いまあまり語られない。西欧近代に異議申し立てした思潮として、私は重要だと思う。日本の反構築的思潮には「脱構築」は、無媒介的に融合してしまうという批判もあった。だが果たしてそうか。
    勿論ポストモダン学派のような一枚岩の思想があるわけだはない。モダニズムに対する多様・多元的な考え方があるだけだ。ノーサンブリア大教授のジム氏は、この本で、哲学、政治学、心理学、社会学、宗教、フェミニズム、科学、芸術と、横断的に50人のキーパーソンを選び、20世紀後半に生じたポストモダン思潮を、浮かび上がらせてくれる。人名事典としても面白い。
    ポストモダンという言葉を浸透させた建築家チャールズ・ジェンクスは、機能的モダン建築様式に対し、過去様式などとの「ダブル・コーディング」の建築を考案したから取り上げられている。建築ではレム・コールハースや、『ラスベガス』を書いたヴェンチューリが挙げられている。小説家では。ポール・オースタージョン・バースウンベルト・エーコ、SFのウイリアムギブソンも。
    映画監督では、デヴィット・リンチやタランティーノで、ポストモダンの視点でみるとこうなるのかと思う。ポストモダン科学では、数学者マンデルブロやルネ・トム、科学史のトマス・クーンなど。
読み応えがあるのは、やはり思想家である。リオタール、ボードリヤール、ドゥールズとガタリフーコー、ドゥポール、サィード、デリダで、膨大な著作と思想を、手際よく簡潔にわかりやすく述べるジム教授の能力に舌を巻いた。アドルノポストモダンの嚆矢としているのも、特異な見方である。またマルクス主義に近く、ポストモダン思想に批判的なフレドリック・ジェイムソンも入っている。
    ジム教授が取り上げている50人は、自らをポストモダン思想と広言している人はいなし、この範疇に入れられることに否定的かもしれない。
    だが50人を読んでいると、反体系的な理性至上主義批判であり、差異を重視し、多様性、複雑性や伝統などとのダブル・コーディング、偶然性や不確定性を含み込むモダニズム批判においては、類似性があると思った。(青土社、田中祐介・本橋哲也訳)