ジンメル『社会学の根本問題』

ジンメル社会学の根本問題』


 20世紀始めに出た社会学の古典である。いま日本で、社会学主義は盛んである。デュルケームマックス・ウェーバー社会学とともにジンメルは決して古くは無い。今度読んでみて、その現代性と面白さを同時に感じた。ジンメルの「社会」の発見は、国家や民族、家族など共同体論に対して、現実社会(リアリティ)の混沌を模写するのでなく、個人の相互作用を固有な認識形式に「構成」することにある。ジンメル社会学は、現実社会のコピーでなく、諸要素の相互作用の精神的総合化という構成物である。歴史学も芸術も似たような構成された精神的統一体である。ジンメルの芸術哲学はその社会学の延長線上にある。
 その「構成」は、社会は個人の分化により(ジンメルには『社会的分化論』という著作がある)その相互作用における競争・上昇・協調・交流・葛藤が起こり、その形式の分析がジンメル社会学の「形式社会学」の根本にある。社会の諸個人の相互作用は、内容に関しては多様だから、形式にのみ限定されることになる。形式の構成の底には、自由な競争による生産社会化よりも、生の哲学による消費重視の質的に高い生活の楽しみと、美的解放の生がジンメルのなかにあったと思う。それが現代のユーロ危機の根底にも流れているのではないか
 私はこの本で面白かったのは第三章「社交」であった。社会というのは相互協力、相互補助、相互対抗だが、その形式が内容という根から解放され形式そのものの遊戯(ゲーム的)の刺激として「社交」が分析されている。社会化の遊戯的形式が「社交」である。そのサークルで個人の富や地位、能力や功績、利害は排除され、この瞬間の繋がりの魅力、純粋な相互作用形式「社会的遊戯」としてジンメルは「社交」を捉えている。人間の勝利の意志、交換、党派の形成、奪取の意志、陥穽や復讐という内容ある相互作用でなく、「社会」が「遊戯」になるという偶然性と楽しい会話という「社交」の重視をジンメルは重視している。私はこれを読みながら、インターネット時代におけるツイッターフェイスブックなどの交流の社会学の祖としてジンメルを再評価したく思った。(岩波文庫清水幾太郎訳)